前回までに、歴史上の感染症がどのように社会や文化を変えてきたのかを見てきました。今回取り上げるのは、現代における「グローバル化」と「環境破壊」が、感染症の広がりにどのような影響を与えているのかという問題です。特に近年は、人間が自分たちの都合だけを優先して経済活動や都市開発を進めてきた結果、自然環境や微生物、ウイルスといった小さな生命の営みが軽視されがちになっていることが指摘されています。そうした構図が、新たな感染症のリスクを高めている可能性があるのです。


1. グローバル化

 いま私たちは、飛行機や貨物船を利用して短時間で世界各地へ移動できる時代を生きています。ビジネスや旅行、物流が活発化する一方で、ウイルスや細菌といった病原体も、人の移動に合わせて国境を越えやすくなりました。たとえば、20世紀前半までは特定の地域にとどまっていた病原体が、現代ではわずか数日どころか数時間で世界中へと拡散するリスクがあるのです。
 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、その典型例と言えるでしょう。グローバル化による迅速な移動や物流は、感染拡大を加速させる要因となりました。同時に、各国の研究機関や医療従事者がオンラインを通じてデータや知見を共有し合い、ワクチン開発や対策立案を早めた一面もあります。グローバル化によって感染症が広がりやすくなる反面、国際協力の枠組みが強化される可能性も生まれたのです。


2. 都市化・環境破壊がもたらす影響

 しかし、急速なグローバル化と並行して進んでいる「都市化」や「環境破壊」は、感染症のリスクを一段と高める要因となっています。大規模な森林破壊によって野生動物の生息域が狭まり、動物と人間との接点が増えることで、新たな人獣共通感染症が出現しやすくなるのです。地球温暖化によって蚊やダニの分布域が拡大すれば、デング熱やマラリアといった感染症がこれまで見られなかった地域にも広がる恐れが高まります。
 こうした現象は単に「自然が破壊されている」だけの問題ではありません。私たちが微生物やウイルスを含む多様な生態系を「二の次」にしてきた結果、病原体が持つ本来の生態を理解しないまま都市や農地を拡大してきた背景があるのです。人間中心の視点で利益や利便性を優先し、自然界のバランスを崩せば、結局は私たち自身の健康と安全が脅かされることにもなります。


未来への視点

 このように、グローバル化と環境破壊は表裏一体となって感染症のリスクを高めています。私たちが生きるこの時代、地球上のあらゆる存在を切り離して考えるのはもはや難しいでしょう。ヒトも動植物も、そして細菌やウイルスを含む微生物までも、一つの生態系の中で相互に影響を与え合っています。
 次回は、こうした状況の中で「感染症を自然の一部として捉える」ことが、私たちの生き方や社会にどんな意味をもたらすのかをさらに掘り下げてみたいと思います。人間中心の都合だけではなく、自然と共に生きる道を見いだすために、もう一度足元の世界を見直すきっかけになるかもしれません。

(次回は「感染症を『自然の一部』として捉える—私たちにできること」をテーマにお届けします。)

 

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