
前回は「感染症も自然の一部である」という視点から、感染症に対するイメージを見直すきっかけをお話ししました。今回は、ウイルスや細菌といった病原体がどのように進化し、人間を含む動物とどんな“攻防”を繰り広げてきたのか、自然史的な視点で考えてみましょう。
1. ウイルスや細菌と宿主はともに進化しあう
ウイルスや細菌は、ヒトや動物よりもはるかに小さいですが、ともに共存しながら暮らしてきました。たとえばウイルスは、自らが増殖するために宿主の細胞を利用します。一方細菌は、独自に増殖しながら、ときにはヒトや動物の体内で有益な働きをしてくれる“常在菌”として共存することもあります。
こうして長い時間をかけて進化し続けるのに合わせて、私たちの体も免疫システムを発達させてきました。つまり、ウイルスや細菌が新たな変異を獲得すれば、それに対抗するために私たちの体も抗体や免疫細胞を強化していく、という絶え間ない“攻防戦”が続いているのです。これを「共進化」と呼びますが、その結果として、私たち自身が進化を遂げるきっかけにもなっています。
2. 生態系における病原体の役割
私たちが感染症というと、「何としても避けたい恐ろしい病気」というイメージになりがちです。しかし、ウイルスや細菌を含む病原体は、自然界のあらゆる生命と相互に影響を与え合う“エコシステム”の一員でもあります。
たとえば、病原体の存在が動植物の個体数を適度に抑えることで、ある種が増えすぎてしまうのを防ぎ、結果的に生態系全体のバランスを保つ役割を果たすこともあります。また、感染を通じて生き延びた個体がより強い免疫を獲得することで、その種全体の生存力が高まる場合もあるのです。これは「自然淘汰」の一環と考えられ、私たちが普段あまり意識しない大きな視点でもあります。
こうして見てみると、病原体は決して人類にとって「侵入者」や「邪魔者」であるだけでなく、進化や生態系のバランスに関わる重要な存在でもあるとわかります。次回は、この「長い付き合い」が人類史や社会にどのような影響を与えてきたのか、歴史的な観点から振り返ってみましょう。
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