気とは何か?─東洋医学で考える(その1)

東洋医学では「動いているのに目に見えないもの」を「気(き)」と定義します。具体的には、以下のように理解します。

  • 何かが動いている場合:そこには「気」が存在する
    (例:生きている身体の各部位は、気があるからこそ動き続ける)
  • 動いていない、生きていない場合:そこに「気」は存在しない
    (例:亡くなった身体は動かないため、気が無い状態と考える)

このように「気」の有無によって、“生きているか・動いているか”を簡潔に把握するのが、東洋医学における大きな特徴です。

現代医学と東洋医学のアプローチの違い

現代医学のスタンス

たとえば「腕はなぜ動くのか」という問いに対して、現代医学では下記のような多角的な分析を重視します。

  • 神経伝達
  • 血流や酸素の供給
  • 各種ホルモンや生理学的要因 など

新しい研究が進むほど詳細が明らかになり、治療法も多彩になります。現代医学では「さらに詳しく調べるほど良い」という考え方が基本です。

東洋医学のスタンス

一方で、東洋医学では「気があるから動く」という、ごく簡潔な一言で説明する特徴があります。これは一見大雑把に思われるかもしれませんが、臨床の場では非常に便利な考え方となります。身体を「気」という視点から捉えることで、治療対象をスピーディに判断できるからです。

「腕の痛み」を例にした東洋医学的分析

腕が痛いと訴える患者さんがいた場合、東洋医学ではまず「気に関わるトラブルかどうか」を見極める指標として、以下のように分けて考えます。

  1. 腕を動かすと痛い
    →「気の不調」が原因になっている可能性が高い
    (動力源である気の巡りが悪い、もしくは十分でないために痛みが生じていると考える)
  2. 動かさなくても痛い(安静にしていても痛い)
    →「気以外の問題」が疑われる
    (骨や筋肉、腱など物質的な部分の損傷や炎症を想定)

分類のメリット

  • 動力源の障害かどうか:動力を生む“気”に問題があるのか、物質そのものの問題なのかを即座に仕分けできる。
  • 治療方針の誤りを減らす:気の問題と判断できるなら、その巡りを整える治療を優先し、物質的な障害と判断できるなら筋骨格系や炎症を狙ったアプローチを検討する。

「気」という概念を導入することで、臨床現場において的確かつスピーディな見立てが可能になるのです。

「気」があやしく感じられる理由

日常会話では、「元気」「根気」「勇気」「勝気」など、「気」を含む言葉を多用しますが、治療や風水などにおける「気の流れがいい・悪い」といった表現になると、急にあやしさを感じる方も少なくありません。その背景には、下記のような理由があります。

  • 定義が明確ではない(見えない)
    「気」が視覚的に確認できるものではなく、具体的な数値化や測定が難しいため、「本当にあるのだろうか?」という疑問を抱かれやすい。
  • わからないものをわからないまま理解しようとする概念
    物理的な証明や明確な裏づけが取りづらいにもかかわらず、東洋医学は「気」という抽象的な要素を積極的に治療に組み込むため、科学的根拠に基づく思考に慣れている方には受け入れにくい。

人体はブラックボックス──「気」の必要性

人体は極めて複雑な仕組みを持っています。

  • 何兆個もの細胞が互いに影響を与え合う超複雑系であり、
  • 全体を生かすために、一部の細胞が犠牲になるといった矛盾さえ含む「動的平衡」を保っています。

現代医学はこの複雑性を可能な限り細かく分析し、矛盾や未知を解明するスタンスをとっています。しかし、いまだ分からないことも少なくありません。そこで、東洋医学では次のように考えます。

大雑把かもしれないが、生命維持の全体像を的確に捉えるためのツールとして「気」を利用する。

たとえば、「腕を動かしたときだけ痛い」という単純な現象も、「気の巡りが悪い」と見るだけで、治療的に有効なアプローチに結びつけられます。これは、複雑な理論を単純化し、かつ確実に臨床で役立てるための思考法といえます。

次回予告:気と陰陽・五行との関係

東洋医学に「気」という考え方を正確に導入し、診断や治療に活かすためには、陰陽や五行といった基礎理論との関連を無視できません。次回は、「気と陰陽、そして五行の関係」について詳しく解説いたします。

  • 気と陰陽
    気が陰陽のバランスとどのように関わるのか
  • 気と五行
    五行の各要素(木・火・土・金・水)が気とどのように繋がっているのか

これらを理解することで、東洋医学の理論体系をより深く学ぶことができるはずです。

まとめ

  • 気は動力の概念:生命活動や物質の動きを「気」で説明するため、東洋医学ではシンプルかつ臨床的に使いやすい。
  • 現代医学の細分化と対比:気の概念は大雑把に見えるが、複雑な人体を大局的に捉えるには有効なツール。
  • 腕の痛み例で考える:動かして痛いか、動かさなくても痛いかによって、気の病か物質的な病かを素早く見極められる。
  • 気のあやしさ:定義が数値化しにくい抽象概念であり、それゆえ科学的根拠を求める思考には怪しまれやすい。
  • 東洋医学の利点:分からないものを“わからない”と受け止めながらも実践に活用することで、シンプルかつ迅速な治療法に結びつける。
  • この記事を書いた人

徳田漢方はり院- 徳田和則

先代から受け継いだ伝統鍼灸を次世代に伝えたいと思っています

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