平成28年 北海道鍼汪会 金崎 文代 H27.1.17
気 血 水(津液)
気血水はいずれも水穀から生まれ
その源泉は飲食物より得られた栄養
いわゆる後天の精という事になる。
よって脾の働きを中心とした六腑の働きが大切となる。
脾の働きが活発で尚且つ飲食が有れば気血水の生成は盛んになるし
脾胃の働きが弱くなり、後天の精が運化されなくなると、気血水の生成が阻害され抵抗
力が弱まり、生体内外の環境変化に適応出来ず病となる。
気の生成
気には先天と後天があり
先天の気は男女両性が合体する事により生じる親から子に伝えられる生命力である。
その先天の気は、後天の気によって養われる。
後天の気は、外界の天の気と飲食の水穀の精気が、合わさって生じる。
後天の気には五臓六腑の正気、経絡の気、三焦の気、宗気、栄気、衛気などがある。
気の作用
- 気には、水穀の精微などから得た栄養物を全身に行き渡らせる働きがある。
栄気などがこれにあたる。 - 気は体表を保護し、外邪の進入を防ぎ、進入した外邪と戦う。
これを防御作用といい、衛気がこれにあたる。 - 気は臓腑組織の活動を促進し、血脈や経絡の流れをスムーズにする。
これは、成長、発育、循環、呼吸、消化、排泄などの生理機能であり、
水道作用といい、五臓の正気、宗気、栄気がこれにあたる。 - 気は衛気により体温を調整し
三焦から発した精微を体表に発散し肌肉を暖め、皮膚を充実させる働きと
膀胱による尿の排泄は、気の運化作用によるものである。 - 気は血が脈外に漏れ出ないようにしている。
脾の気による血水の統血作用がこれにあたる。 - 気は水穀の精微を血に変化させたり、骨髄から血をつくったり、
津液を尿に変化させる働きがある。
これを気化作用といい、変化や代謝の作用をいう。
気の病症
五臓六腑の正気は、外界からの刺激に対して異常を感じると
それを邪気としてとらえ、正気と邪気が抗争する。
その症状は有痛であり、痛みの種類においては、
- 木は俊痛
- 火は腫痛
- 土は疼痛
- 金は重痛
- 水は麻痛
となる。
経脈の病証においては是動病となる。
陽が傷れた時は、督脈上に現われ
- 亜門が木
- 大椎が金
- 背中が土
- 腰間が水
となり
陰が傷れた時は、任脈上に現われ
外から傷れた病変は
膻中が心臓
鳩尾が肝臓
三脘の部が胃
内から生まれた病変は
膻中が肝臓
鳩尾が胃
三脘の部が小腸となる。
血の生成
血は有形で飲食の摂取により、水穀の精微が心肺に輸送され気化作用により血となる。
よって血は身体にとって全身的な栄養となる。
古典からみる「血」
霊枢30「決気篇」
【中焦 気を受け 汁を取り、変化して赤きを、これを血という】
飲食物が胃に入って消化吸収され水穀の精微となり
さらに気化作用により赤い液体に変化し、これを血という。
霊枢18「栄衛生会篇」
【中焦もまた胃中に並び 上焦の後に出づ
これを受くる所の気は 糟粕を必し津液を蒸し その精微を化して上りて肺脈に注ぐ
すなわち化して血と為りて以て身を奉生す】
中焦の気も上焦の場合と同じく胃の中からであり
上焦が出た後に中焦の気がでる。
そして、胃に取り入れた飲食物から糟粕と津液をわけて
その津液を水穀の精微と化してより
肺脈へといたり、そこで変化して血となって生命を維持する。
霊枢47 「本蔵篇」
【経脈なる者は、血気を行らして陰陽を営み
筋骨を濡し、関節を利するゆえんの者なり】
経脈は血と気を運行して人体の調和を営み
さらに筋骨を濡して関節の働きを容易にする。
血の働きをまとめると
- 血は生体にとって栄養物質であり
上焦の肺の呼吸作用によって初めて血となり
血は五蔵の正気を満たし、その結果腎に精気が輸送されて
腎は精を貯蔵し、腎精となり、腎精は骨髄を養い、骨髄は血を生む。 - 腎精は脾気の運化能力を促進し
心肺を栄養する物質の機能を増強し血の生成を促進する。 - 血は生成後、脈内を行きて全身を栄養し、組織と器官の活動を促進する。
- 血は精神活動に関係する。
心血脈を司り、神明を司る。
よって血脈が十分満たされていれば、
精神や意識、思想活動において正常に働くことが出来る。
血と五臓
- 血は心臓の主催によって全身を循環運行する。
- 心気は血気を使って臓腑の機能を統率する。
- 肺は相傳の官として心の働きを助け血を巡らせる。
- 腎の蔵する精は骨髄を養って骨髄は血を生む。
血の体表への表現
- 顔面の血色が良いか?
- 肌肉が豊満か?
- 皮膚や毛髪に潤いや光沢があるか?
- 眼舌唇鼻耳の五官が円滑に働いているか?
- 関節運動がスムーズに動いているか?
これらより、血の供給が正常に行われているかをみることができる。
血の病症
血の病症は正気の損傷と衰弱であり、身体に現す症状は無痛である。
経脈の病証においては、所生病ということになります。
水(津液)の生成
津液は気血栄衛と同じ水穀から生まれる。
口腔から取り入れた飲食物は水穀の海に貯蔵され
消化吸収をへて穀気となり脾胃で津液となる。
津と液
津液は津と液にそれぞれの働きがある。
津において
霊枢30「決気篇」
【腠理 発泄し、汗出づること溱溱たる、是れ津という】
つまり津とは皮膚から発して汗となって漏れ出るものをいう
霊枢36「五癃津液別篇」
【三焦は気を出だして 以って肌肉を温め、皮膚を充し、その津となる】
三焦から発した精微は体表に発散して肌肉を温め皮膚を充実させる。これを津という。
液において
霊枢30「決気篇」
【穀入りて気満ち、淖澤して骨に注ぐ、
骨属屈伸し、洩澤して、脳髄を補益し、皮膚を潤沢にす。是れ液という】
液においても飲食物からなり、水穀の精微は全身に満ちわたり
そこから外に溢れたものは骨に注いで、関節の動きを滑らかにし
滲み出たものは脳髄を補い、皮膚を潤します。これを液といいます
霊枢36「五癃津液別篇」
【それ留まりて 行かざるものを液となす】
つまり液は多少は流れるものの、とどまって巡らない性質である。
津液と臓腑
三焦
三焦は水道を疎通し、気血を循環させる臓腑の外衛であり
「決瀆の官」といわれ水分の調節をする重要な臓腑である。
- 上焦)肺に送られた津液は三焦を通じて、皮膚と臓腑の間を周流し全身に散布される。
- 中焦)水穀を腐熟し、津液を活性化させ全身を滋養する。
- 下焦)清濁を分け、津液を膀胱に注いで浸透させ利尿作用を導く。
腎
素問34「逆調論篇」
【それ水なる者は 津液に循いて流るるなり、腎なる者は水蔵にして、津液を主る】
腎は体内の津液を管理、調節するという事。
この津液の中身は脳髄液、関節液、尿の調整などが含まれる。
また、五役において腎が主宰するものは〔液〕である。
膀胱
霊枢2「本輸篇」
【膀胱なる者は 津液の腑なり】
素問8「霊蘭秘典論篇」
【膀胱なる者は 州都の官、津液ここに蔵さる。】
膀胱は腎と三焦と協力して津液を貯蔵して気化を司り
不用な水分を小便として排泄する。
脾 胃
素問29「太陰陽明論篇」
【臓腑は各々その経(脾経)に因りて気を陽明に受く。故に胃のために其の津液を行らしむ】
五臓六腑はいずれも脾経を経て胃の穀を受けている。
胃の津液は直接行かず脾が胃に代わって、脾の運化機能によって津液は運ばれる。
肺
素問21「経脈別論篇」
【飲 胃に入りて精気を遊溢し、上り脾に輸し、脾気は精を散じ、
上り肺に帰り、水道を通調し、下り膀胱に輸す。水精は四布し、五経並び行る。】
水液が胃に入るとその中の精なるものが津液となって
脾の運化機能により肺に運ばれ、肺の宣発機能によって全身に散布される。
そして、肺の粛降機能によって腎に下った津液は、清濁に分けられ
清は腎陽によって蒸騰気化され、脾の運化と肺の宣発粛降によって再度全身に散布される。
濁は膀胱に下注され、膀胱の気化作用により尿として排泄される。
水液の精は四方に輸布されて五臓の経脈に流れる。
心
素問23「宣明五気篇」
【心は脈を主る】
営気と津液は血液を生成する重要な要素で
水穀の精微が吸収されると一部の津液は脈内に入り
血脈の運行と共に全身に運搬される。
五液について
素問23「宣明五気篇」
【五臓の化液。心は汗をなす。肺は涕をなす。肝は泪をなす
脾は涎をなす。腎は唾をなす。これを五液という】
〔高士宗の説〕… 化液とは、飲食物が口から入り、その津液は各々の経路を行く。
五臓はその水穀の精微を受けて、それを外竅に注ぎ
それが変化して五液となるのである。
水穀より化生した五液は腎臓に属する。
よって腎臓のはたらきが衰えると廉泉から津液が十分に補充出来なくなり水腫を起こす。
また、脾臓が水穀の精微を津液に化する事が出来ないと痰飲に凝縮して
この痰飲が内を阻むと津液は五液に化せず口乾する。
津液と精神
素問9「六節蔵象論」
【五味は口から入り腸胃に蔵され、味の蔵する処
以って五気を養い、気を和らげ生み、津液相成り、神自ら生まれる】
五味は食物として口より入り、腸胃に貯蔵され消化し
その水穀の精微が吸収されて五臓の気が養われます。
五臓の気と穀気が再び相い合わさると津液を生じ臓腑を潤し
精髄を補うので、神気が自然に盛んになる。
よって、津液も精神活動において深く関係し
津液の五液においても、精神、情志に影響を受ける。
霊枢36「五癃津液別篇」
【五臓六腑の津液、尽く上がりて目に滲み
心に悲哀の気が合わさると心系は急し 心系が急すると肺が挙がり
肺が挙がれば液は上り溢れ、肺は常の働きを失い、上下して咳嗽し泣出づ】
霊枢28「口問篇」
【目なる者は宗脈の聚る所なり、液の上る道なり~
悲哀憂愁すれば、心動き、心動けば、五臓六腑みな揺らぎ
揺らげば宗脈感ず。宗脈感ずれば液道開く、液道開いて泣涕出づ】
このように、七情の気が乱れて、悲哀憂愁の感情が生ずることにより、涙や涕が出てくる。
それは、精神と情志に異変が起こると、涕、涙、泣、哭の症状が現れるためである。
また、素問81「解精微論篇」に泣くと、涙や涕が出てくることや
涙がともなわずに泣くという事とはどうゆうことか書いてあります。
汗について(汗と精神)
精神的緊張や驚いた時に発汗する。
素問21「経脈別論篇」
【驚きて精を奪わるれば、汗、心より出づ】
王冰の説 ー 驚いて心の精が奪われると、神気は浮上し、陽気は内にあって心に迫る。
よって汗が心から出る。
津液の病症
身体内部の水液の停滞を現し、その症状は凝結(こり)という事になります。
こりには気ごりと血ごりがあります。
津は体表の表層部を循環し、三焦の働きにより皮膚に出れば腠理が開き汗となって
下って膀胱に行けば溺(尿)となる。
そのため、病めば汗と溺に影響する。
液は体内の深層部にあり、三焦の働きにより液は関節を潤し、
脳脊髄を補充し、臓器を満たし、器官を潤す。
そのため、病むと液のあるところは萎縮し
毛髪は枯れ、耳鳴、脛痛み、関節の屈伸は不能となる。
臨床的には、津と液は区別せずに考え
津液の循環と平衡がどうなっていくかを診ていく。
ご清聴ありがとうございました。