イライラ・不安の意外な原因は低血糖?——甘いものと交感神経の関係
食後に、眠くてたまらない。
お昼を食べたばかりなのに、もうお腹が空いている。
集中力を保つために、飴やちょっとした甘いものが手放せない——。
心当たりはありませんか。
実はこれ、ただの「甘いもの好き」ではありません。ちょっとした一言にカッとなる、小さな心配事が頭から離れない——そんなイライラや不安と、同じ原因から出ているサインかもしれないのです。
「私はなんて性格が悪いんだろう」と自分を責めてきた方にこそ、読んでいただきたい記事です。それは性格の問題ではなく、体の状態として説明がつくことが多いのです。体の状態なら、整えていく道筋があります。
この記事の要点
- 些細なことへの過敏反応は、交感神経の高ぶりとして説明がつくことがある
- 交感神経を高ぶらせる原因は、ストレスと、意外に知られていない「低血糖(血糖値の乱高下)」
- 東洋医学では、イライラと甘いもの渇望を「肝と脾の搾り取り合い」という同じ構図で見る
- 対策は「甘いものは食後に」「間食はタンパク質系に」「食間をあける」

それは性格ではなく、「交感神経の高ぶり」かもしれません
自律神経には、2つの神経があります。
- 戦闘の神経……交感神経(体を緊張・活動モードにする)
- 休息の神経……副交感神経(体を休めるモードにする)
このうち戦闘の神経が高ぶりっぱなしになると、次のような症状が出てきます。
- 眠れない・眠りが浅い
- ちょっとした刺激に敏感になる
- とにかく疲れて仕方がない
- カッと頭に血が上りやすくなる
- 胸がバクバクして苦しくなる
- 逆に、ふっと悲しくなる
ほんの些細な変化やストレスに過剰に反応してしまうのは、性格ではなく、交感神経の過敏です。
私の治療院でこの状態をご相談いただくのは、圧倒的に女性です。東洋医学の陰陽(いんよう・体や自然を「熱・活動」と「冷え・鎮静」の2つの性質で見る考え方)でいえば、女性は「陰」の性質を持つ体。戦闘モードという「陽」の状態が続くことに、もともと向いていないのではないか——そんな推測も立ちます。
自律神経は「自動」の神経です
自律神経とは、心臓の拍動、胃腸の消化、呼吸、汗といった体の働きを、意識とは関係なく24時間調節してくれている神経です。手足は自分の意思で動かしますが、内臓は自動運転なのです。
健やかなときは、この自動運転がうまく働いているので、何も感じません。運動すれば勝手に心拍が上がり、リラックスすれば勝手に下がる。それが「心臓が気になる」「呼吸が気になる」となるのは、自動でやってくれるはずのものに意識が向いてしまうほど、しんどい状態だということです。
では、なぜ戦闘の神経は高ぶりっぱなしになるのでしょうか。
原因はストレスだけではない——意外に知られていない「低血糖」
まず思い浮かぶのはストレスです。常に緊張を強いられる職場や家庭環境にいれば、休息の神経が働く暇がありません。これは分かりやすい原因です。
ただ、意外に思われるかもしれませんが、もうひとつ、一般にはあまり知られていない原因があります。
低血糖です。
ここでいう低血糖とは、病気としての診断名ではなく、血糖値(血液中の糖分の濃さ)が急上昇した反動で下がりすぎてしまう状態——いわゆる「血糖値スパイク」による乱高下のことです。
冒頭のサイン——食後に眠くなる、すぐお腹が空く、甘いものが手放せない——を思い出してください。あれは、血糖値が急上昇と急降下を繰り返しているサインなのです。1時間半おきに甘いものをつまみながら仕事をしている、という方もよくいらっしゃいます。
しくみを短く説明します。甘いものなどで血糖値が急上昇すると、体は慌てて下げようとします。ところが、血糖値を下げるホルモンはインスリンただ1つ。上げるホルモンは何種類もあるのに、下げる側には代役がいません。そのため微調整が苦手で、今度は下がりすぎてしまうのです。
下がりすぎた血糖は命に関わるため、体は血糖値を上げるホルモンを総動員します。このホルモンたちが、交感神経も一緒に高ぶらせてしまう。つまり、血糖値が乱高下するたびに、体の中では小さな「非常事態」が起きているわけです。
イライラ・不安・過敏——その正体が、この非常事態の連続だった、ということがあるのです。
甘いものがやめられないのはなぜ?——東洋医学では肝と脾の「搾り取り合い」
ここからは、東洋医学でこの状態をどう見るかをお話しします。
登場するのは五臓のうちの2つ、肝(かん)と脾(ひ)です。東洋医学の肝・脾は、肝臓や脾臓という臓器そのものではなく、体の働きを表す言葉です。肝は血(けつ)の調整やイライラ・緊張と関わりが深く、脾は胃腸の働き、つまり食べたものから栄養を作る係です。
五行(ごぎょう・木火土金水の関係で体を見る考え方)では、肝(木)は脾(土)を「剋(こく)する」、つまり抑えつける関係にあります。ただ私は、相剋とは抑えつけるだけでなく、相手から物を強引に取っていく関係でもあると考えています。
肝は血の調整のために栄養を必要としています。足りなくなると、脾からなけなしの栄養を搾り取ろうとする。それでも必要な分をもらえないから、肝はイライラする。一方の脾は、肝に要求され続けているから、少しでも早く栄養が欲しくて、すぐエネルギーになる甘いものをどんどん欲しがる——。
そうして無理を続けるうちに、肝も脾も疲弊していきます。
お気づきでしょうか。「イライラが止まらない」と「甘いものが手放せない」は、別々の問題ではなく、同じ構図の表と裏なのです。
実際、東洋医学専門の鍼灸院で日々診察をしていて、私が低血糖の影響に気づくきっかけは、問診よりも先に「胃の疲れ」であることが多いです。前腕や、みぞおちの左側(胃の見どころ)、中脘(ちゅうかん・おへそとみぞおちの中間にあるツボ)に胃の疲れのサインが出ている方に伺うと、甘いものの摂りすぎか、タンパク質不足が背景にあることがよくあります。
そして、ここに怖いところがあります。脾(胃腸)が疲弊しきっていると、栄養のあるものを食べても、吸収しきれない可能性があるのです。だからこそ、食事の工夫と、胃腸を立て直す治療をセットで進める必要があると考えています。
鍼灸での治療——胃腸と呼吸を整える
当院では、この状態に対して主に2つの面から体を整えていきます。
1つめは胃腸(脾)の立て直しです。鍼灸で胃腸の働きを整え、食べたものから栄養を吸収できる体に戻していきます。栄養が満ちてくれば、肝と脾の搾り取り合いも収まっていきます。
2つめは呼吸です。緊張が続いている方は、肩・首・胸まわりがこわばって呼吸が浅くなっています。鍼灸でこのこわばりを緩めると、自然に呼吸が深くなります。呼吸は「吐く」ほうが大切で、しっかり吐ければ、休息の神経(副交感神経)が働きやすくなります。
正直にお伝えすると、症状が進んでいる方ほど、立て直しには時間がかかります。ただ、焦らず順番に整えていくことが、結局は近道だと考えています。
今日からできる間食の工夫——甘いものは「食後」に
「甘いものをやめましょう」とは言いません。甘いものへの衝動は、意志の力で消えるものではないからです。私が患者さんにお伝えしているのは、次の3つの工夫です。
- 甘いものは「食後」に食べる……食後は血糖値がもともと上がっているので、乱高下の波が小さくて済みます。
- 間食にはタンパク質系を……ナッツ類やゆで卵など、砂糖の入っていないもの。人工甘味料も避けてください。
- 食間をあける……間食を減らして食事と食事の間をあけると、胃腸が休まります。
なお、パンや麺類など小麦を多く食べることも、胃腸が弱っている方には負担になりやすい、というのが臨床での実感です(胃腸が丈夫な方は気にしなくて大丈夫です)。
そして、一番お伝えしたいことがあります。
栄養不足が解消されてくると、あれほど欲しかった甘いものへの衝動が、半分以下になる——「あんなに欲しかったのに、ふしぎと減りました」という声を、私は患者さんから何度も聞いてきました。
この変化を一度体験しておくことには、大きな意味があります。この先、ストレスや環境の変化で甘いものが増えてしまう時期があっても、「また整えれば、衝動のない状態に戻れる」と知っているからです。私は、ここが良くなっていくかどうかの、一番の分かれ目だと考えています。
よくある質問
甘いものを食べると、一瞬気持ちが落ち着くのはなぜですか?
下がりすぎた血糖値が一時的に上がるためと考えられます。ただ、そのあとにまた急降下の波が来るので、繰り返すほど乱高下は激しくなります。だからこそ「食後に食べる」工夫で、波を小さくすることをおすすめしています。
甘いものは完全にやめないとダメですか?
いいえ。衝動は意志の力で消えるものではないので、「やめる」よりも「食後に食べる」「間食はナッツやゆで卵などタンパク質系にする」のほうが現実的です。栄養状態が整ってくると、「衝動そのものが減った」という声も多くいただきます。
パニックのような症状があります。病院と鍼灸、どちらに行くべきですか?
まずは病院での受診・検査が大切です。そのうえで、鍼灸はお薬と並行して受けていただけます。当院では、体の緊張や胃腸の状態を整えることで、交感神経が高ぶりにくい体づくりを目指します。お薬を自己判断で調整せず、今の状態のままご相談ください。

まとめ
- 些細なことへの過剰反応は、性格ではなく交感神経の高ぶりとして説明がつくことがあります
- 原因はストレスと、意外に知られていない「低血糖(血糖値の乱高下)」です
- 東洋医学では、肝と脾の搾り取り合い。イライラと甘いもの渇望は同じ構図の表と裏です
- 今日からの工夫は「甘いものは食後に」「間食はタンパク質系に」「食間をあける」
- 胃腸を立て直すと、衝動そのものが減っていくことが期待できます
「性格のせい」と一人で抱え込まず、まずは今の状態をご相談ください。

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