
「土用の丑の日」といえば、うなぎを食べる日として広く知られていますね。「土用」とは東洋医学の用語で、年に4回、春夏秋冬の移行期間のことです。昔の人々は、この時期を心身の変化が起こりやすい特別な期間と捉え、暮らしの中で意識してきました。
特に夏の土用では暑さによって胃腸の働きが弱りやすく、たくさん汗をかくことで体内の水分や栄養が消耗されがちです。 こうした時期に栄養豊富なうなぎを食べて、夏バテを乗り切ろうとした知恵が、「土用の丑の日」の習慣の背景の一つとも言われています。
この記事では土用のウナギについて初心者の方にも分かりやすくご紹介していきます。
1.「土用」とは何か──五行学説でみる「土」の役割
東洋医学の根幹をなす五行学説(木・火・土・金・水)では、それぞれの要素が自然界と身体機能を表していると考えられています。なかでも「土」は、植物が育つための栄養基盤という意味合いをもち、人の身体では消化吸収や栄養の運搬などに対応するとされています。
- 土用とは、四季が切り替わる前の約18日間のこと。春夏秋冬、それぞれの「終わり」に位置し、次の季節へ移る“クッション期間”のような存在です。
- なかでも夏の土用(おおむね7月下旬ごろ)は、暑さが本格化する時期と重なり、胃腸機能の低下により体力を消耗しやすくなります。そこで身体の土台(=土)を支える「栄養補給」が一段と大切だと考えられてきました。
2.丑(うし)の日とは何か?「土」とのつながり
「土用の丑の日」の「丑」とは、十二支(子・丑・寅・卯…)の丑を指します。この十二支も東洋哲学の体系の一部であり、丑は土の性質と深いつながりがあると捉えられます。
- 「子丑寅卯…」の丑は、植物の種子が土の中でエネルギーを蓄え、芽吹く準備をするような段階にも例えられることがあります。
- この丑が「土」であるとされることから、「土用に丑が重なる日=栄養を重視する日」と結び付いて、栄養豊富なうなぎを食べる風習が生まれました。
3.なぜ「うなぎ」を食べるのか?──歴史と現代的な栄養価
3-1 昔から重宝されてきたタンパク源
かつての日本では肉食が制限されていました、特に牛肉は農耕で重要な役目を持つ牛の肉ですので、食肉は硬く禁じられていました。
ですので、主なタンパク源は魚です。しかし、夏は気温が高く、保存技術が未発達だった時代には魚が腐りやすく問題が多かったのです。
そこで、生けすや桶の中でも生きられる「うなぎ」や「ドジョウ」は、内陸や遠方にも新鮮なまま安全に運搬できる貴重なタンパク源でした。夏バテを防ぐためにこれらを食べる習慣は理にかなっており、それが現在の「土用の丑の日にうなぎを食べる」ならわしへとつながったといわれています。
3-2 現代栄養学からみたうなぎの利点
- 高タンパク質:夏バテを防ぐために重要な栄養素。疲労回復や筋力維持に役立つ。
- ビタミン・ミネラル:ビタミンAやB群、カルシウム、鉄など多彩な栄養素を含み、身体の機能をトータルでサポートしてくれます。
- 脂質:うなぎに含まれる脂質は質がよく、適量ならば体力維持に寄与します。
昔も今も「うなぎ」は、夏の疲れを補うための貴重な栄養源として活躍しているのです。
4.夏の土用に意識したい「タンパク質」中心の食事
夏場は食欲が落ちて、冷たい飲食物ばかり取りがちです。そうすると胃腸の働きがさらに弱まり、炭水化物だけの偏った食事が増えやすくなります。東洋医学では、五行の「土」にあたる胃腸は気血(エネルギーや血液)の源と考えられ、ここが弱ると全身に影響が出るとされます。
- タンパク質不足は夏バテにつながる
- タンパク質は胃でしっかり消化される必要があり、土用の時期こそ大切な栄養。
- うなぎだけでなく、他の魚や肉、大豆製品、卵などでもバリエーションを持たせるとよいでしょう。
- 炭水化物ばかりにならない工夫
- 冷たい麺類や清涼飲料水だけで済ませると、胃腸の機能低下に拍車がかかりやすいです。
- 夏でも温かい汁物やバランスの良い主菜を少しずつでも取るよう心がけましょう。
5.「土用」は夏だけじゃない──季節の変わり目全般での養生
実は土用は年に4回あります。
- 春の土用(4月20日頃)
- 夏の土用(7月20日頃)
- 秋の土用(10月20日頃)
- 冬の土用(1月20日頃)
どの土用も“季節の変わり目”を緩やかに乗り切るための期間と考えられます。とくに夏は体力消耗が顕著になりますが、春・秋・冬の土用でも胃腸を中心に「身体の土台」が乱れないよう、栄養バランスに注意を払いましょう。
6.夏バテ対策:東洋医学の専門家がすすめるポイント
初心者の方でも実践しやすい、夏バテ防止の基本は「タンパク質+水分+適度な休養」です。東洋医学の観点を少し取り入れるだけで、より効果的に体調管理ができます。
- タンパク質を意識する
- うなぎ以外にも、肉・魚・豆製品・卵などを取り入れる。
- 胃腸に負担がかかりにくい調理法(煮込み、蒸し、スープ)を選ぶ。
- こまめな水分補給
- 水や麦茶など、ミネラル補給ができる飲み物が望ましい。
- 冷たすぎるものをがぶ飲みしない。内臓が冷えると胃腸の機能も落ちる。
- 適度な休息で体力温存
- 夏は夜更かししやすいが、早めに就寝して睡眠時間をしっかり確保。
- 汗を大量にかいた後は、塩分も含めたミネラルを補給し、無理をしない。
- 季節の変化を意識する
- 気温や湿度が不安定なときは、衣服や寝具で調整し、身体への負担を減らす。
- 「土用は次の季節への準備期間」と心得て、日頃の生活習慣を見直す。
7.まとめ──「土の季節」こそ栄養を充実させ、夏を乗り切る
夏の土用は、気候変化が激しく身体に負担がかかる時期です。そのため、東洋医学の観点では「土(胃腸)」を補う栄養がとりわけ重要とされています。昔から日本では、桶で生かしておけるうなぎをタンパク質源として食し、夏バテを防いできました。現代でもタンパク質、ビタミン、ミネラルを多く含むうなぎは、暑さに負けない身体づくりを助ける食材といえます。
しかし、うなぎだけに偏らず、肉や魚、大豆製品など多彩なタンパク質をバランスよく摂り、適度な水分補給や休息も組み合わせることが大切です。「土用の丑の日」には、ぜひこの東洋医学的な考え方を思い出してみてください。胃腸をいたわり、夏の暑さを乗り切る工夫をすることで、次の季節へスムーズに移行しやすい身体を育むことにつながります。
執筆者:
徳田漢方はり院 院長 徳田 和則
- 鍼灸師・柔道整復師
- 北海道漢方鍼汪会 会長
- 奈良県生まれ・北海道大学出身
専門家としての一言:
「食生活と身体は密接に結びついています。五行学説の視点を日常に少し取り入れるだけで、季節の変化に柔軟に対応できる身体づくりが可能です。とくに夏場は胃腸への配慮を最優先に考え、必要な栄養をしっかり補うことで、快適な生活を目指しましょう。」