はじめに

「疲れがとれず、すぐに寝込んでしまう」
「なんだか気力がわかず、夕方になると微熱が続く」

こうした体調不良が長期にわたって続く場合、甲状腺の異常が隠れている可能性があります。特に、橋本病に代表される甲状腺機能低下症は、うつ病と間違えられやすい症状(強い疲労感や無気力など)を伴うことも少なくありません。

西洋医学では甲状腺ホルモンの値を確認して診断を行い、不足しているホルモンを補う治療が基本です。
しかし、薬を飲んでホルモン数値が安定しても、「冷えやむくみ、気力低下があまり改善しない」というケースも多く報告されています。
そこで注目されるのが、身体全体のバランスを整える東洋医学のアプローチです。

本記事では、まず西洋医学的な甲状腺機能低下症(橋本病を含む)の概要を簡潔にまとめ、続いて東洋医学的な視点・治療法を具体例とともにご紹介します。

1. 西洋医学で見る甲状腺機能低下症・橋本病

1-1. 甲状腺ホルモンのはたらきと症状

甲状腺は、首の前面にある小さな器官ですが、“身体を元気に動かすホルモン”を分泌する重要な役割を担っています。

  • 甲状腺機能が低下すると、体を活発に動かすエネルギーが不足し、以下のような症状が出やすくなります。
    • 疲労感(寝ても疲れが取れない、すぐだるくなる)
    • 冷え性(手足が冷たい、体温が低い)
    • むくみ・体重増加(特に顔や足首のむくみが気になる)
    • 便秘・皮膚乾燥
    • 無気力・抑うつ傾向(やる気が出ない、集中力が続かない)

1-2. 橋本病とは

橋本病は自己免疫疾患の一種で、自己抗体が甲状腺を攻撃し、甲状腺ホルモンの分泌量が減る病気です。症状は甲状腺機能低下症とほぼ同様ですが、原因は免疫システムの異常にあります。

  • 女性に多く発症し、遺伝やストレス、栄養バランスの乱れなどが関与するといわれています。
  • 甲状腺ホルモン補充薬によって数値が正常範囲になったとしても、冷えやむくみ、強い倦怠感などの症状が残ってしまう方も少なくありません。

1-3. 西洋医学の治療と課題

甲状腺機能低下症や橋本病では、血液検査でホルモン値(TSH、T3、T4など)を確認し、不足している場合は甲状腺ホルモン薬(レボチロキシンなど)を使って補います。

  • 薬によってホルモン値が安定しても、必ずしも症状が完全に消えるわけではない
  • 疲労感や気力低下、冷え、むくみなどの**「なんとなく不調」**が長く残るケースがある

このように「検査値は正常になっているのに、体感としてまだ不調」という状況に陥ったとき、東洋医学の視点をあわせて取り入れる人が増えています。


2. 東洋医学ではどう考える?:根本から体質を立て直すアプローチ

甲状腺機能低下症や橋本病を東洋医学的に捉えると、“全身の気血水(きけつすい)の不足”や“五臓六腑のバランス低下”が原因になっていると見なされることが多いです。とくに、身体を温めるエネルギーや栄養を生み出す力が弱まっていると考えられ、以下のような対処法が中心となります。

2-1. 「陰証」と「陽証」:自分の体質を見きわめる

東洋医学には、大まかに“陽証”と“陰証”があります。橋本病など甲状腺機能が低下している場合は、陰証(身体の働きが弱まっている)に当てはまるケースがほとんどです。

  • 陽証:バセドウ病など、代謝亢進が目立つタイプ
  • 陰証:体力やエネルギーが不足し、冷えや疲労が強いタイプ

具体例A:橋本病と診断された40代女性

  • もともと低体温気味で、冬は靴下を重ね履きしないと寝られない
  • 毎朝シャワーだけですませていたが、体がいつまでも温まらず、午後には倦怠感がピークに
  • 薬でTSHなどの値は安定しているが、むくみと便秘が改善せず、足の冷えもつらい
    陰証の典型例と考えられ、鍼灸では“身体を温めながら巡りをよくする”治療が中心になる

2-2. 五臓六腑から見る甲状腺のトラブル

東洋医学では、臓器を「五臓六腑」に分けて捉え、互いに助け合う仕組みがあると考えます。甲状腺機能低下によって起きやすい症状は、以下の臓器と関係することが多いです。

  1. 脾臓(ひぞう)
    • 食べ物をエネルギー(気血)に変える消化器系を指す
    • ここが弱ると倦怠感が抜けず、四肢が重く冷えやすいほか、むくみやすい
  2. 腎臓(じんぞう)
    • 「先天の精」を蓄え、生命力・成長・生殖に深く関わる臓器
    • 加齢やストレスが重なると腎が弱り、冷え、骨や筋力の低下、髪のトラブルなどが出やすくなる
  3. 肺臓(はいぞう)
    • 呼吸や皮膚・体毛に関係し、免疫のバランスにも寄与する
    • 肺の働きが低下すると呼吸が浅くなり、酸素や気の巡りが悪くなる

具体例B:気力や集中力が落ちて困る50代女性

  • 甲状腺ホルモン薬を半年服用して検査値は良好
  • しかし、肩こりや背中のこわばりが強く、呼吸が浅いせいか少し動くと疲れる
  • 東洋医学的に見ると、肺と脾の機能がともに低下しており、食事からエネルギーをしっかり取り込めずにいる
    肺と脾を強化する鍼灸施術や、呼吸を整えるセルフケアを組み合わせることで改善を図る

3. 東洋医学的治療のポイント

3-1. 鍼灸による「補(ほ)」と「瀉(しゃ)」

東洋医学の鍼灸では、足りないものを補い、余分なものを取り除くという考え方を基本としています。

  • 甲状腺機能低下症の場合:エネルギーや血を増やす「補」の施術が中心
  • 腹部や背部のツボを刺激し、胃腸や腎・肝の働きを上げる
  • 肩や背中が固くなっている場合は「瀉」でこりをほぐし、呼吸を深める

3-2. 食事と栄養指導:質の良いタンパク質をしっかり摂る

東洋医学的には、「脾を補う=しっかり栄養を取り込み、血や気を作る」ことが重要視されます。特に、橋本病の方が疲れやすい状態を克服するには、タンパク質やビタミン・ミネラルを多く含む食事が欠かせません。

  • **主菜(肉・魚・豆製品)**をしっかり摂り、野菜や海藻類でミネラルを補う
  • 炭水化物や甘いものに偏りがちな方は、おかずを食べた後に少量のデザートを楽しむなど、順番に気をつけるだけでも血糖値の急上昇を抑えられるなど効果がある

3-3. 生活習慣の工夫:冷え取り&呼吸を意識

  • 軽い運動:ウォーキングなどで下半身の筋肉を動かし上下のバランスを整えて、エネルギー産生をサポート
  • 呼吸法:肩や背中の緊張をほぐすストレッチを行い、自然に呼吸を深くする
  • 睡眠:寝ている間にいろいろなホルモンを調節しています、可能な範囲で就寝時間を整える

4. 実際の症例:東洋医学的アプローチで変わった例

● 40代女性・橋本病歴2年

  • 甲状腺ホルモン薬を服用し、数値はほぼ安定
  • しかし、日中は強烈な眠気と倦怠感があり、仕事に集中できない
  • 鍼灸院での施術:
    1. お腹(脾・胃)や腰部(腎)に効くツボを刺激して温め、血流を促進
    2. 肩甲骨周りのこりを鍼で緩め、呼吸を深くするサポート
    3. 栄養と食生活のアドバイス

約3ヶ月通院した頃には、体温が0.5℃ほど上昇し、手足の冷えが明らかに改善。「午後の強い眠気がだいぶ軽減し、定時まで仕事をこなせるようになった」とのこと。食事の内容を見直すことで体重も過度に増えなくなり、「この病気と一生付き合わなきゃ」と思い詰めていた気分が少しずつ楽になったそうです。


5. まとめ:数値だけでなく“自分の体”を整える

甲状腺機能低下症(橋本病を含む)は、検査でホルモン値を補正していくことが基本の治療となります。しかし、薬で数値が安定しても、冷えやむくみ、倦怠感、気力低下などの不調が続く場合は少なくありません。そうしたとき、東洋医学のアプローチを併用することで、身体全体のバランスを整え、自分自身の自然治癒力を高める道が開ける可能性があります。

  • 鍼灸治療で「気・血・水」を巡らせ、内臓の働きをサポート
  • 食事指導や生活習慣の見直しで、五臓六腑にしっかりと栄養を供給
  • 呼吸や睡眠の質を上げることで、ストレスや冷えを緩和し、体温や代謝を上げる

甲状腺ホルモンは身体のエンジンオイルのような存在ですから、足りなければ補うのは当然大切です。それと同時に、エンジン(全身の臓器・経絡)がスムーズに回るようメンテナンスするのが東洋医学の視点といえます。もし「薬を飲んでもいまいち調子が上がらない」と感じる場合は、一度東洋医学の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。