更年期障害の鍼灸治療——同じ「更年期」でも、体で起きていることは人それぞれです
「更年期かもしれない」——問診票にそう書いて来られる方は、当院では少なくありません。そして、そう書く方の問診票には、必ずと言っていいほど症状が3つも4つも並んでいます。ほてり、イライラ、眠れない、むくみ……。
私はまず、こう伺います。「この中で、一番つらい症状はどれですか?」
病名はひとつでも、体で起きていることは人それぞれだからです。そして、体で起きていることが分かれば、打つ手も見えてきます。この記事では、私が更年期の不調をどう見立てて、どう治療しているのかをお話しします。ご自分の「一番つらい症状」を思い浮かべながら読んでみてください。

なぜ同じ更年期で、出る症状がこんなに違うのか
西洋医学では、更年期障害は閉経前後に女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減ることで起こる、と説明されます。治療も、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬・抗不安薬など、「減ったものを補い、つらい症状を抑える」方向で組み立てられます。急な症状を落ち着かせるうえで心強い選択肢ですし、これらの治療と鍼灸は並行して受けられます。どちらかを選ばなければいけないものではありません。
ただ、臨床で患者さんを診ていて思うのは、「エストロゲンの減少」というひとつの原因だけでは、症状の個人差までは説明しきれない、ということです。同じ更年期でも、ある方はほてりと汗が主で、ある方はイライラと落ち込みが主で、ある方はとにかく眠れない。しかも、どの症状から良くなっていくかも人によってバラバラで、あまりパターンがありません。
東洋医学には、この個人差を読み解くための見立てがあります。ここからは、当院でよく診る症状のグループごとにお話しします。
なお、ここから先は全部読む必要はありません。ご自分の「一番つらい症状」の見出しだけ、拾い読みしてください。
ほてり・汗・むくみ・肩こり——水と熱をめぐらせる「三焦」の乱れ
顔がほてって汗が噴き出す。そのくせ寒がりで、足はむくむ。肩もこる——一見バラバラの症状ですが、東洋医学ではこれらを1つの見立てで束ねられます。カギは「三焦(さんしょう)」。全身の水分を運び、体温の調節を受け持ち、体力にも関わる働きです。
更年期のほてりには、特徴的な所見があります。触れた瞬間は確かに熱いのに、高いのは皮膚の表面の温度だけで、体の中はむしろ冷えていることが多いのです。皮膚が熱いまま寒い場所へ出ると、寒暖差でかえって寒く感じます。「のぼせるのに寒がり」という一見矛盾した訴えは、こうして説明がつきます。
※ここから少しだけ理屈の話です。おつらい方は読み飛ばして、この節の最後の治療の話や、セルフケアに進んでいただいて大丈夫です。
上が熱く、下が冷たい。この状態を東洋医学では「上熱下寒(じょうねつげかん)」と呼びます。ただ、これはあくまで状態の名前で、「なぜそうなるのか」までは語っていません。私は、その「なぜ」を三焦の乱れと見ています。温度調節と水分の輸送を受け持つ三焦がうまく働かなくなると、熱の置き場所も水の流れも乱れる。汗は出るのに冷える。そして、水は流れが止まるとよどみます。花瓶の水を替えないと悪くなるのと同じで、運ぶ力が落ちた水分は、むくみとして溜まっていくのです。
肩こりも、実はこの仲間です。体の水分(津液・しんえき)が熱などで固まった「かたまり」が、細い肩の筋に来ると、動きが鈍って重だるくなります。

治療では、まず肩甲骨まわりや首、腕まわりのこわばりをゆるめて、体の流れ——とくに熱の流れ——を良くしていきます。あわせて欠かせないのが、力をつけることです。熱や水を巡らせるのにも力(気=体を動かすエネルギー)が要りますから、胃腸で栄養をきちんと吸収できる体に整えて、巡らせる力そのものを育てていきます。
イライラ・落ち込み・涙もろさ——「肝」の更年期
職場でも家でもイライラが続き、些細なことで怒りが爆発してしまう。かと思えば気分が沈んで、涙もろくなる——こうした感情の波は、東洋医学では「肝(かん)」で見立てます。
肝は、血を蓄えて、体に巡らせる量を調節している臓です。そして生理は、血の営みです。更年期に生理が揺らいでくると、肝の「血の調節」も変になってきます。その乱れが、イライラ・不安・落ち込み・涙もろさといった感情の波になって表に出るのです。こめかみのあたりの頭痛も、肝の頭痛としてこのグループによく重なります。
もともと忙しい方ほど、肝をよく使っています。だから更年期で肝が揺らいだときの振れ幅も大きくなりやすい——これは臨床でもよく感じることです。
では、弱った肝をどう立て直すか。私は、肝そのものを直接叩くことはしません。肝には、胃腸(脾・ひ)という非常に優れたパートナーがいます。脾が食べたものから栄養を作り、それを肝に流してあげれば、肝は元気になっていく。この関係性が強いので、治療では脾から肝を助ける組み立てをよく使います。

眠れない——不眠は悪循環の起点。でも、立て直しの起点にもなります
更年期の症状の中で、私が一番つらいと思うのは不眠です。眠れないから体力が落ちる。体力が落ちるからいろんな症状が出る。症状が出るから余計イライラする。イライラするからまた眠れない——どんどん悪循環に入ってしまうからです。
実は「更年期だからこういう不眠」という特別なパターンはありません。見立ては普段の不眠と同じで、東洋医学では目が覚める時刻などを手がかりにします。午前1〜3時に目が覚めるのは肝の時間で、イライラして眠れないタイプ。最初から寝つけない入眠困難は、肝か、あれこれ考えて眠れない脾(胃腸)のタイプです。
診察して「これは明らかに肝の不眠だ」と分かり、体力もありそうな方には、私は「この不眠は肝臓が原因です。東洋医学的に肝臓は強い臓器なので、大丈夫ですよ」とお伝えしています。不眠がまず改善すると、休めるようになり、「良くなるかも」と思えるようになる。そこから、先ほどの悪循環が逆回転して、良い循環に入っていきます。
めまい・動悸・関節の痛みなどが主の方は——専門の解説へ
めまい・動悸・息苦しさといった自律神経の症状や、関節痛・しびれ・胃腸の不調などの体の症状も、更年期にはよく重なります。これらは症状ごとに詳しい解説ページがありますので、ご自分の「一番つらい症状」がこちらなら、そちらをお読みください。


更年期障害への鍼灸治療——当院の考え方
※ここは治療の裏側の考え方の話です。読み飛ばして、次のセルフケアから読んでいただいても大丈夫です。
ここまで症状のグループごとにお話ししましたが、実際の見立ては、脈とお腹に触れて決めます。「更年期」とひとくくりにせず、その方の体で何が起きているかを確かめてから、鍼をするツボを選びます。
私が師匠から受け継いだ治療の考え方に、「慢性の不調は、元気なところから間接的に助ける」というものがあります。弱っている臓をどれだけ直接刺激しても、機能そのものが弱っていれば効果は一時的です。脾から肝を助けるのは、まさにこの考え方の代表例です。
鍼は髪の毛ほどの細さで、施術は1回約15分。だるさの強い時期に長時間の施術はかえって負担になるので、必要なところだけを短時間で整えます。
ここまで読んで、「自分はどのグループだろう?」と迷った方へ。それを見立てるのが、私の仕事です。ご自分で判断がつかなくて大丈夫ですので、LINEで「更年期の相談」と一言送ってください(24時間受付)。
質問だけでもお気軽にどうぞ
セルフケアは、2つだけ覚えてください
三焦と体力を守る——ほてり・汗・むくみが主な方
- 足湯で足元を温め、散歩で下半身を動かす。頭がのぼせる人ほど、足は冷えています
- 冷たい飲み物のとりすぎを控え、内臓を冷やさない
- 栄養のあるものを食べる。お菓子が多すぎると食欲がおかしくなって、肝心の栄養のあるものが食べられなくなります
肝臓を休ませる——イライラ・不眠が主な方
- 睡眠と休養を多めにとり、肝を回復させる
- カフェインや糖分、過度な飲酒をできる範囲で控える
- 夜のスマホ・パソコンの時間を減らす。東洋医学では「目は肝とつながる」と考え、目の使いすぎは肝を消耗させると見立てます
更年期障害のよくある質問
Q1.更年期障害に鍼灸は効果がありますか?
症状と体質によります、と正直にお答えしています。「更年期」とひとくくりにせず、一番つらい症状から、その方の体で何が起きているかを見立てて治療します。
効果の感じ方には個人差がありますが、検査で大きな異常がないのにつらさが続く場合は、鍼灸が力になれることの多い領域です。
Q2.ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬と鍼灸は併用できますか?
はい、並行して受けられます。お薬をやめる必要はありません。急な症状には医療の力を借りながら、体質の面は鍼灸で支えるという組み合わせ方ができます。
なお、お薬の中止や変更はご自身で判断せず、処方された医師にご相談ください。
Q3.更年期障害はいつまで続きますか?
個人差が大きく、一概にはお答えできません。東洋医学では7×7=49歳前後を体の大きな節目と見ますが、切り替えがスムーズに進むかどうかは、体質とそれまでの疲れの蓄積で変わります。どの症状から良くなっていくかも、人によってバラバラです。
更年期を過ぎても不調が長引いている場合は、体質がまだ整いきっていないサインと見立て、体全体のバランスから立て直していきます。
Q4.30代ですが、更年期のような症状があります。相談できますか?
はい、ご相談いただけます。若い世代でも、ストレスや生活リズムの乱れから似た不調が出ることがあります。
一度も検査を受けていない場合は、別の病気が隠れていないかを確認するため、婦人科の受診もあわせておすすめします。
Q5.料金と、初めての場合の流れを教えてください
料金は1回3,000円(税込・初診料なし)です。保険証をお持ちの場合は2,200円、医師の同意書がある場合は1,500円になります。
初回は問診とカウンセリングを含めて40分ほど見ておいてください。施術自体は約15分です。当日のご予約もできます。
まとめ——「一番つらい症状」から、一緒に見立てていきましょう
- 更年期障害は、病名はひとつでも体で起きていることは人それぞれ。ほてり・汗・むくみは「三焦」、イライラ・落ち込みは「肝」、不眠は「肝か脾」——一番つらい症状から見立てます
- どの症状から良くなっていくかもバラバラです。だからこそ、ご自分の体で何が起きているかを知ることが第一歩になります
- 婦人科の検査・治療(HRTや漢方薬)と鍼灸は並行できます。急な症状には医療の力を借りつつ、体質の面は東洋医学で支える組み合わせが可能です
問診票に症状を3つ4つ書くことになりそうな方——それはごく普通のことです。「一番つらい症状はどれですか」から、一緒に見立てていきませんか。
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