鍼灸を受けて、その日のうちに「体が軽くなった」と感じる方がいます。いっぽうで、変化を実感するまでに時間がかかる方もいます。
「私は後者かもしれない……」と不安になった方にこそ、先にお伝えしておきます。
この差を生むのは、施術との相性や運ではありません。多くの場合、その方がもともと持っている「自然治癒力の蓄え」の差です。そして自然治癒力は、いま足りなくても、これから育てることができます。
この記事では、札幌で東洋医学専門の鍼灸院を営む院長の私が、次の3つをお話しします。
- 自然治癒力とは何か。鍼灸はそこにどう関わるのか
- 自分の自然治癒力が足りているかを見分ける、2つのチェックポイント(背骨と筋肉)
- 足りない場合に、食事・呼吸・休息で育てていく方法

自然治癒力とは? 身体が自分を治す力
自然治癒力とは、けがや不調を、身体が自分の力で修復し回復させる仕組みのことです。
転んで擦りむいた傷が、放っておいても自然にふさがっていく。あの働きです。頭痛や肩こりといった不調も、本来はこの力が内側から立て直していきます。表面の症状を一時的に抑えるのではなく、原因ごと立て直すのが自然治癒力の本質です。
私たち鍼灸師が施術で行っているのは、この仕組みがよく働くように身体を整えることです。ツボや経絡(けいらく。気血の通り道)を使って、身体が本来持っている回復の仕組みに働きかけます。
鍼灸の役割は、回復のスイッチを押すこと
私はよく、鍼灸師の仕事を「車の整備士」にたとえます。
エンジンを調整し、サビついたパーツを手入れして、車がスムーズに走れる状態をつくるのが整備士の仕事です。ただ、どれだけ整備が完璧でも、ガソリンが入っていなければ車は走りません。
身体でいえば、ガソリンにあたるのが、食事と呼吸から得られるエネルギーです。私が鍼で身体を整えても、本質的に治すのは患者さん自身の自然治癒力。鍼灸は、その力がきちんと働き出すよう後押しするサポート役です。
これは病院の治療でも同じです。薬や処置が回復を助けてくれますが、最終的に傷をふさいでいるのは患者さん自身の身体です。
すぐ良くなる人と、時間がかかる人の違い
違いをひとことで言えば、「自然治癒力の貯金」がどれだけ残っているかです。
すぐ良くなる人は、体力や免疫力の土台がしっかりあり、食事や睡眠の習慣が良好で、慢性疲労が少ない方です。蓄えが十分にあるので、施術で身体を整えたぶんを、そのまま回復にまわせます。
時間がかかる人は、慢性的な疲労や強いストレスで、治癒力が目減りしている方です。呼吸が浅い、食事が偏っているなど、エネルギーをうまくつくれない状態にあり、まず蓄えを増やすところから始める必要があります。
ここで、臨床でよく感じることをひとつ。症状の激しさと、治りにくさは、必ずしも比例しません。
ぎっくり腰のような急性の症状は、見た目は激しくてもスッと良くなることが多いのです。むしろ、何年もかけて疲労をため込んだ「なんとなく続く不調」のほうが、長丁場になりがちです。
ですから私は、診ていて「これは急性だ」とわかると、内心少しほっとします。
セルフチェック:あなたの自然治癒力は足りている?
では、自分の蓄えは足りているのか。東洋医学の視点では、次の2つがチェックポイントになります。
- 背骨が整っているか
- 筋肉に弾力があるか
背骨は「先天の力」——生まれ持った貯金
東洋医学では、両親から授かった生命力である「先天(せんてん)の力」は、背骨に蓄えられると考えます。お金にたとえるなら、生まれたときから口座に入っていた貯金です。
この貯金は、生活の無理や加齢、慢性的な疲れで取り崩されていきます。すると背骨の並びが乱れ、姿勢のくずれとして外に表れてきます。
ちょっとした不調が長引く、回復力が急に落ちた。そんな方は、貯金の残高が減っているサインかもしれません。
筋肉は「後天の力」——毎日の現金収入
いっぽう、筋肉に蓄えられるのは、毎日の食事と呼吸によってつくられる「後天(こうてん)の力」です。こちらは日々の現金収入にあたります。
筋肉に張りと弾力がある方は、収入がしっかり入っている状態です。
私が施術で診ているサイン
実際の臨床でも、この2つはとても正直です。施術がうまく運んだとき、患者さんのお腹はふっくらと柔らかくなり、皮膚につやが出てきます。
長年患者さんの身体に触れてきて、治癒力が働き出したかどうかは、こうしたところに表れると感じています。
ご自身で確かめるなら、あお向けに寝て、下腹部を手のひらで軽く押してみてください。ふかふかとした弾力があるか、それとも硬く張っているか。これも、いまの蓄えを知るひとつの目安になります。
足りなくても大丈夫——先天の不足は、後天で補える
「背骨が乱れているなら、もう手遅れ?」——そうではありません。ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
先天の力である「貯金」と、後天の力である「現金収入」はつながっています。後天で得た力に余裕ができると、それが貯金にまわり、先天の力を補ってくれるのです。
お財布に残った現金を、コツコツ貯金に回すイメージです。
つまり、貯金が減っている方ほど、毎日の収入にあたる食事と呼吸を増やしていくことが大切です。
鍼灸がお手伝いできるのは、この「収入を増やしやすい身体づくり」です。当院では、次の2つの面からサポートします。
- 胃腸の働きを整える——胃腸が弱っていると、栄養のある食事をとっても十分に吸収できません。鍼灸で内臓の働きを調整し、栄養をしっかり取り込める状態をつくります。
- 呼吸を深くしやすい身体をつくる——肩・背中・胸まわりの緊張をゆるめ、浅くなった呼吸を深くしやすくします。酸素がすみずみに届けば、身体全体の活力が上がります。
自然治癒力の育て方——食事・呼吸・休息
ご自身でできることは、この3つに集約されます。
食事:身体の「材料」を入れる
筋肉も血液も免疫物質も、材料はすべて食事からつくられます。
東洋医学では、食材には「身体を温めるもの」「身体を冷やすもの」といった性質があると考え、体質に合わせて選びます。
すべてを変える必要はありません。まずは良質なたんぱく質と、温かい食事を意識するところからで十分です。
呼吸:材料をエネルギーに変える
どれだけ材料をとっても、酸素が足りなければエネルギーになりません。
ストレスや緊張で肩や胸がこわばると、呼吸は知らないうちに浅くなります。1日に数回、意識して深くゆっくり呼吸する時間をつくってみてください。
休息:蓄えを「貯金」にまわす時間
回復と蓄えが進むのは、休んでいる間です。
いまこの記事を、夜、ふとんの中でスマホで読んでいる方もいるかもしれません。
東洋医学では「目は肝(かん。血を蓄え、全身に巡らせる臓)とつながる」と考え、夜遅くまで画面を見続けることは、肝を消耗させるとみます。
せっかくの貯金タイムに、残高を減らしてしまうのです。読み終えたら、今夜は少しだけ早く画面を閉じてみてください。
よくある質問
Q. 鍼灸を受けても、すぐに効果を感じないのはなぜですか?
施術が合っていない、と決めるのは早いかもしれません。
自然治癒力の蓄えが少ない状態から始める方は、まず蓄えを増やす段階が必要なため、変化を感じるまでに時間がかかることがあります。身体が変わるための土台づくりの期間と考えていただければと思います。
Q. 自分に自然治癒力があるか、自分で確かめる方法はありますか?
目安になるのは「背骨が整っているか、姿勢がくずれていないか」と「筋肉に弾力があるか」の2つです。
姿勢のくずれが目立ってきた、疲れが抜けにくくなったと感じる方は、蓄えが減っているサインかもしれません。詳しくは、本文のセルフチェックをご覧ください。
Q. 自然治癒力が少なくても、鍼灸を受ける意味はありますか?
あると考えています。鍼灸は治癒力を「引き出す」だけでなく、「育てる」お手伝いもできるからです。
胃腸の働きや呼吸を整えて、エネルギーを蓄えやすい身体づくりをサポートします。蓄えが少ない方ほど、生活習慣の見直しとあわせて取り組む価値があります。
Q. 何回くらい通えば変化を感じられますか?
お身体の状態によって異なります。
急性の症状は早く変化が出やすい一方、慢性の不調は蓄えを増やしながらの長丁場になることが多いです。当院では、初回にお身体を拝見したうえで、その方の見通しをお伝えしています。
まとめ:自然治癒力は、育てられる
- 鍼灸は「回復のスイッチを押す」サポート役。本質的に治すのは、あなた自身の自然治癒力です。
- 蓄えの目安は、背骨に表れる先天の貯金と、筋肉の弾力に表れる後天の現金収入です。
- 先天の不足は、食事・呼吸・休息という後天の力で補えます。
「自分は時間がかかるタイプかもしれない」と感じた方こそ、早めに育て始めるのがおすすめです。
自分の自然治癒力がいまどれくらいあるのか、一度診てほしい。そんな方は、お気軽にご相談ください。
質問だけでもお気軽にどうぞ
