■ はじめに:下痢と身体からのサイン

下痢になると、「早く止めなければならないのでは」「脱水症状が起こるかもしれない」と不安を感じる方も多いでしょう。しかし一方で、「悪いものを排出しているから、あえて止めない方がいい」という意見を耳にすることもあります。

実際に下痢は、体内に入り込んだ病原菌や有害物質を早期に排出するための生理的な防御反応の一面も持っています。ただし、場合によっては脱水や体力低下を引き起こすリスクがあるため、むやみに放置してよいわけではありません。

本記事では、下痢の仕組みや注意点、さらに東洋医学的な考え方を踏まえながら、下痢を「止める・止めない」の見極め方と具体的な対処法を解説していきます。

1.下痢の役割と原因

1)身体の防御反応としての下痢

  • 食あたりやウイルス性胃腸炎などの際、体内に侵入した病原菌や毒素を素早く体外に出そうとする働きの結果、下痢が生じることがあります。
  • 急性の下痢は、身体を守るための「緊急対策」としても捉えられます。

2)慢性・原因不明の下痢

  • ストレスや生活リズムの乱れ、あるいは**過敏性腸症候群(IBS)**などにより、下痢が長期化する場合があります。
  • 同じ「下痢」でも原因が異なれば、対処方法も異なるため、状況に応じた適切なケアが必要です。

3)デトックスとしての下痢(例をあげて)

  • 暴飲暴食(特に脂っこいもの): 一度に消化能力を超える量の食事、特に脂肪分が多いものを摂取すると、消化不良から下痢になることがあります。
  • 乳糖や小麦: 牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が少ない人が牛乳や乳製品を摂取した場合。小麦のグルテンに対する不耐性などがあります。
  • アレルギー反応: 特定のアレルギーがある場合、アレルゲンを体が異物と判断し、排出しようとして下痢します。

2. 下痢と脱水・体力低下のリスク

下痢が続くと、腸内だけでなく**身体全体の水分や電解質(ナトリウム・カリウムなど)**が失われやすくなります。

重症化しやすい方

  • 子ども・高齢者:体内の水分量が少なく、脱水症状を起こしやすい
  • 妊娠中の方:母体と胎児の健康を守るため、早めに対策が必要
  • 持病のある方(糖尿病・腎臓病など):電解質バランスが崩れやすく、症状が悪化しやすい

こまめな水分・電解質補給

  • **経口補水液(OS-1、アクアソリタなど)**を活用
  • スポーツドリンクでもある程度の補給は可能ですが、糖分が高いものもあるため注意
  • 食事がとれない状態であれば、医療機関で点滴を受けることも検討しましょう

特に注意が必要な場合

  • 血便が混じる、激しい腹痛を伴う、高熱が続く下痢は、重症の感染症や炎症性腸疾患などの可能性があるため、医療機関を受診してください。
  • 一般的な急性の下痢でも、2~3日続いても改善が見られない場合や、1日に10回以上という明らかな異常がみられる場合は専門家の診察を受けましょう。

参考資料

  • 「日本消化器病学会」ウェブサイト
  • 厚生労働省の感染症情報ページ

3. 下痢を止めるか、自然に任せるかの判断ポイント

  1. 軽度の急性下痢の場合
    • 明らかに食あたりを起こした、またはウイルス性胃腸炎である程度経過がわかっている場合は、すぐに下痢止めを使うのではなく、まずは水分・電解質補給と安静を心がけましょう。
    • 消化にやさしい食事(お粥、うどん、野菜スープなど)で胃腸を休ませます。
  2. 症状が重い・長引く場合
    • 高熱がある、血便、激しい腹痛があるときは、早期に専門医を受診してください。
    • 数日経っても下痢が改善しないようなら、別の原因が潜んでいる可能性があります。
  3. 子どもや高齢者への配慮
    • 下痢による脱水で、意識がぼんやりしたり、排尿回数が減るなどの変化が見られたら危険信号です。
    • 自己判断での市販薬使用は避け、早めに受診を検討しましょう。

4. 東洋医学的な視点:身体を「出す」だけでなく「整える」ケア

東洋医学では、下痢を「湿邪」や「寒邪」の侵入、あるいは「脾胃(消化機能)の弱り」と捉えます。「とにかく出せばよい」というよりは、身体のバランスを整えて、必要なものは補い、不要なものは排泄するという考え方です。

  • 鍼灸
    • 「足三里(あしさんり)」「合谷(ごうこく)」「中脘(ちゅうかん)」などを刺激して、胃腸の調子を整える場合があります。
    • 体質、年齢などによってツボの選択は異なります、専門の鍼灸師に相談するのが望ましいです。
  • 漢方薬
    • 症状や体質によって、「補気(胃腸を元気づける)」「清熱(熱を冷ます)」などの作用をもつ漢方薬を選びます。
    • 代表的には、体を温めつつ消化機能を高める「健脾(けんぴ)薬」系統や、下痢や嘔吐を伴うときに使われる「五苓散(ごれいさん)」などがありますが、専門家へ相談するのが基本です。

5. 実践的セルフケア

  1. 食事の工夫
    • おすすめ:お粥、にゅうめん、野菜スープ、ヨーグルト(ただし冷やさない)など。
    • 避けたいもの:油っこい料理、生野菜、冷たい飲み物、刺激物(カフェイン、アルコール、唐辛子など)。
  2. お腹を温める
    • 腹巻きや使い捨てカイロなどで、お腹を温めると胃腸への血流が良くなり、回復を促すと考えられます。
  3. ツボ押し・お灸
    • 「足三里」は胃腸の調子を整える代表的なツボとして有名です。親指でやさしく押し回して刺激しましょう。
    • お灸(温灸や市販のせんねん灸など)を使用する場合は、やけどに注意しながら正しい位置と方法で行うようにしてください。
  4. ストレスケア
    • ストレスは胃腸機能を乱す大きな要因です。下痢と便秘を交互に繰り返す方は、十分な睡眠や適度な運動が必要です。

6. まとめ:下痢は身体のサイン、でも放置は禁物

  • 下痢は、身体が不要なものを出すための反応でもあります。脱水・体力低下に気をつけながら解毒をしていくのも。
  • 2~3日で改善しない場合、血便や激しい腹痛、発熱を伴う場合は迷わず受診してください。
  • 東洋医学的アプローチを含め、セルフケアでは「整える」「温める」「補う」ことを意識し、長引くようであれば医師や鍼灸師、漢方の専門家を頼るのが賢明です。

おわりに

下痢はつらい症状ですが、下痢が起こったときは、まず「身体が何を訴えているのか」を考えてみることが大切です。必要に応じて医療機関の診察を受けつつ、東洋医学的なアプローチやセルフケアを取り入れることで、よりスムーズな回復が期待できます。少しでも早く快方へ向かい、健やかな日常を取り戻していただけますよう、心から願っております。

(執筆:徳田 和則 徳田漢方はり院 院長

  • 2008年 徳田漢方はり院を開業
  • 鍼灸師・柔道整復師
  • 北海道漢方鍼汪会 会長
  • 奈良県生まれ/北海道大学出身