
はじめに
妊娠中はつわりや腰痛、逆子、お腹の張り、むくみなど、さまざまな不調が起こりやすい時期です。それなのに、赤ちゃんへの影響を考えると薬には頼りづらい。「つらいけれど、我慢するしかない」——そう思い込んで、一人で耐えている方がとても多いように感じます。
私は徳田漢方はり院で、妊娠中(授乳中も含む)の方の鍼灸治療を行ってきました。逆子や安産、つわり、むくみなど、妊婦さん特有のお悩みに、お腹には直接鍼をしないなど安全面に配慮した方法でお応えしています。このページでは、妊娠中の鍼灸がどのように役立つのか、ご自宅でできるお灸のコツ、そして東洋医学から見た妊娠期の過ごし方について、私の考えをお伝えします。
1.妊娠中でも鍼灸を安心して受けられる理由
1-1.薬を使わないアプローチ
妊娠初期から後期にかけては、胎児や母体の変化が劇的に進むため、薬の服用はどうしても慎重にならざるを得ません。鍼灸は、薬を使わずに身体のツボを刺激し、自然治癒力や血行を高めることで症状の緩和を図る方法です。「何かを身体に入れる」のではなく「身体がもともと持っている力を引き出す」という東洋医学の発想は、妊娠中という特別な時期にこそ相性が良いと私は考えています。
1-2.「気・血・水」のバランスを整える
妊娠中はホルモンバランスが大きく変わり、自律神経(=内臓や血流を自動で調整している神経)も乱れやすくなります。東洋医学ではこれを、気(=体を動かすエネルギー)・血(=血液とその働き)・水(=体内の水分)のバランスの崩れとしてとらえます。
妊娠中の身体は、お母さんの気血を赤ちゃんに分け与えている状態です。だからこそ、お母さん側の巡りが滞ると、つわりやむくみ、腰痛といった形で不調が表に出やすくなる——これが東洋医学の見方です。鍼灸で全身の巡りを調えることは、症状を一つずつ抑え込むのではなく、不調の出にくい身体の土台をつくることにつながります。
1-3.安全面への配慮
当院では、妊娠20週未満の方は念のためかかりつけ医に確認していただいた上で施術を行うようお願いしています。また、腹部への鍼は行わず、主に腰や腕、脚などのツボを選んで治療します。「妊娠中に鍼をして大丈夫?」という不安は当然のものですから、初めての方にはどのツボを、なぜ使うのかを説明しながら進めています。
2.妊婦さんの症状例と鍼灸ができること
2-1.逆子・安産に向けたケア
逆子の原因は一概には断定できませんが、私が診てきた範囲では、下半身の血行不良や骨盤周りの硬さ、疲労の蓄積が背景にある方が少なくありません。
また、逆子ケアでいらっしゃる方とお話ししていると、お仕事や家のことで毎日忙しく過ごされている方や、「逆子です」と言われたことを気にしすぎて、気持ちが張りつめてしまっている方が多い印象です。東洋医学では、心の緊張は気(=体を動かすエネルギー)の巡りを滞らせると考えます。ですから当院の逆子ケアでは、身体をゆるめると同時に、ほっとひと息つける時間になることも大切にしています。
鍼灸では、お灸の温熱刺激と血行促進で子宮周りをやわらかく保ち、赤ちゃんが回りやすい環境づくりをサポートします。あわせて全身のバランスを整えることで、出産に向けた身体の準備をトータルにお手伝いします。

2-2.つわり(悪阻)の軽減
妊娠初期のつわりは、吐き気だけでなく、倦怠感や食欲不振などさまざまな症状を伴います。東洋医学では、つわりは胃腸の働きの乱れと深く関わると考えます。鍼灸治療や足裏へのお灸で胃腸の機能と自律神経を調えることで、気分の悪さの緩和が期待できます。

2-3.むくみ・腰痛・肩こり
妊娠中期〜後期は、水分代謝や血流が変わり、むくみが出やすくなります。東洋医学でいう「水」の巡りが滞った状態です。鍼灸で巡りを促し、下肢に余分な水分が溜まるのをケアすることで、だるさや足の疲れの軽減を図ります。腰痛や肩こりに対しても、筋肉の緊張をゆるめるアプローチが可能です。
3.セルフケアで安産を促す「お灸」のすすめ
3-1.おすすめのツボと時期
- 裏内庭(うらないてい) … 妊娠初期のつわりに効果が期待されるツボ。足の人差し指を曲げて、指先が足裏につくところにあります。
- 三陰交(さんいんこう) … 妊娠中期〜後期のむくみや逆子ケア、安産にも使われる代表的なツボ。内くるぶしから指4本分上、骨と筋肉の間あたりが目安です。
3-2.お灸のやり方と注意点
お灸をすえる回数は、1ヵ所につき2〜4回程度が目安です。最初の1回で十分な熱さを感じたら、そこでやめて構いません。熱さを強く感じたら、火傷防止のためすぐに外してください。大事なのは回数や強さよりも続けることです。短時間でも毎日こつこつ行うことが、東洋医学の考える「安産体質」への近道だと私はお伝えしています。
3-3.どちらの足にすえる?
「右足と左足、どちらにお灸したらいいの?」というご質問をよくいただきます。私は「気持ち良いほうを優先してください」とお答えしています。ツボがピタッと合うと、じんわりと心地よい温かさを感じることが多いからです。ただし、火傷にはくれぐれもご注意ください。
市販のお灸を使う場合は、まずは熱さがやさしい台座灸(=皮膚に直接もぐさが触れないタイプ)から始めるのがおすすめです。たとえば「せんねん灸」のソフトタイプのような、刺激の強すぎないものなら安心です。「カマヤミニ」のようなお灸は熱がしっかり通る反面、慣れていない方には扱いが難しいことがあります。妊娠中は体調や週数によって注意点が変わりますので、不安な方は自己判断で無理をせず、来院時に使い方を確認してください。
4.東洋医学で考える妊娠期の過ごし方
4-1.夜11時〜3時は“赤ちゃんの時間”
東洋医学では、夜11時〜深夜3時頃は「肝」(=血を蓄え、全身に配る働きを担う臓)が活発に働く時間帯で、赤ちゃんにとっても成長しやすい時間だと考えます。お母さんがこの時間にしっかり休むことで、肝のエネルギーを赤ちゃんに回せる、というのが東洋医学の見方です。
こんな行動は控えめに
- この時間帯に起きてパソコンやスマホを使い、目を酷使する
- 激しい筋肉トレーニングや長時間の家事を行う
東洋医学では「目は肝とつながっている」と考えるため、夜中のスマホの見過ぎなど目を酷使することは肝をフル稼働させ、赤ちゃんに回すはずのエネルギーを母体側が使ってしまうことにつながります。「どうしても眠れない」という方も、目を閉じて横になるだけで肝は休まります。眠れないことを焦る必要はありません。
4-2.運動とのバランス
適度な散歩などの運動は妊娠中でも推奨されますが、「安産のために」と過度なウォーキングや安産体操を無理に続けて、かえって身体を疲れさせてしまう方を時々お見かけします。妊娠中の運動は「楽にこなせる範囲にとどめる」こと。疲れたら早めに休む——それで十分です。
5.当院での施術の流れとサポート
5-1.カウンセリングと安全確認
初回には妊娠週数や症状の状態、これまでの経緯をじっくり伺います。特に妊娠20週未満の方は、かかりつけ医の許可を得てからご来院いただくことで、より安心して施術を受けていただけます。
5-2.腹部を避けた鍼灸治療
当院では、妊婦さんへの施術でお腹への鍼は行いません。膝や肘、足首、腰など安全にアプローチできるツボを選び、腹部は触診のみです。刺激の強さは、体力のある体質か、疲れやすい体質かといった一人ひとりの証(=東洋医学的な体質・状態の見立て)に合わせて調整し、体調に合わせて無理なく進めます。
5-3.自宅でできるセルフケアのアドバイス
「安産のお灸」「逆子ケアのお灸」を自宅で取り入れたい方には、ツボの取り方やもぐさの選び方を施術の中で丁寧にお伝えします。毎日少しずつ習慣にすることで、変化を実感しやすくなります。
6.赤ちゃんとママのための「やさしい」選択
妊娠中は心も身体も大きな変化の連続で、不安になって当たり前の時期です。そんなときこそ、薬に頼らず身体本来の力を高める鍼灸という選択肢を、思い出していただけたらと思います。
「こんな症状も相談していいの?」「逆子にお灸は本当に効果あるの?」——そんな素朴な疑問こそ、遠慮なくお聞かせください。迷っている段階でのご相談は、LINE(24時間受付)が便利です。
まとめ
- 妊娠20週未満の方は、かかりつけ医に確認のうえご来院ください
- お腹への鍼は行わず、腰や脚など安全性の高いツボを選んで施術します
- 自宅でのお灸(裏内庭・三陰交など)で、つわり・逆子・安産のセルフケアができます
- 夜11時〜深夜3時は赤ちゃんの成長タイム。しっかり休息を取りましょう
- 過度な運動や夜更かしで疲れ切ってしまう前に、鍼灸で身体を整える選択肢を
お腹の赤ちゃんと一緒に、健やかで穏やかな毎日を過ごせるよう、私が丁寧にお手伝いします。
