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不眠症と五臓六腑|目が覚める時刻でみる4タイプと鍼灸の考え方

2026 7/20
治療のはなし
2026年7月20日

夜中にふと目が覚めたとき、枕元の時計を見ることはありますか。

「また1時だ」「今日も明け方4時に起きてしまった」——じつは、目が覚める時刻が毎回だいたい同じ、という方は少なくありません。東洋医学では、この「時刻」が体の中を知る大きな手がかりになります。五臓(ごぞう。肝・心・脾・肺・腎という、東洋医学での5つの内臓の働き)には、それぞれ受け持ちの時間帯があると考えるからです。

眠れない日が続くと「一生このままなのでは」と不安になりますが、先にお伝えしておくと、不眠は私の臨床経験では治りが早いほうの症状です。タイプの見当がつけば、手の打ちようがあります。

この記事の要点

  • 不眠は「目が覚める時刻・眠れ方」から、肝・脾・肺・腎の4タイプに見当をつけられます
  • タイプ別の原因と、鍼灸がどう考えて治療するかを、東洋医学専門の鍼灸院(札幌・徳田漢方はり院)の院長が解説します
  • 睡眠薬を飲みながらの治療もできます。通院の目安は週1〜2回です

この記事は全部読む必要はありません。次の「4つのタイプ」から、ご自分に一番近いところだけ拾い読みしていただければ十分です。

目次

東洋医学では、眠りは「肝」が支配すると考えます

五臓六腑(ごぞうろっぷ)とは、東洋医学で体の働きを5つの臓と6つの腑に分けて捉える考え方で、解剖学の臓器そのものではなく、もう少し広い「働き」を指す言葉です。そのなかで眠りを支配しているのは肝(かん。血を蓄えて全身に配る働き)。そして五臓には一日の中で担当の時間帯がある——いわば「体の時間割」があると考えます(この時間割は子午流注・しごるちゅうと呼ばれます)。夜中の1〜3時は肝の時間、明け方3〜5時は肺の時間、午後3〜7時は膀胱と腎の時間、という具合です。

だから私は、不眠の相談を受けるとまず「何時ごろ目が覚めますか?」とうかがいます。時刻と眠れ方から、どの臓が疲れているのか見当をつけていくのです。

不眠症の4つのタイプ——目が覚める時刻で見分ける

1. 布団に入っても寝つけない(入眠困難)——脾(胃腸)か肝

最初から寝つけない方は、脾(ひ。胃腸の働き)か肝です。見分け方は簡単で、あれこれ考えごとが堂々巡りして眠れない方は脾、イライラして眠れない方は肝。

東洋医学では「思い悩む」のは脾の働きと考えます。決められないことがあると、人は迷い続けて眠れなくなる。じつは私自身、若いころは迷って眠れないたちでした。「即決即断」を心がけるようにしたら眠れるようになった、という自分の経験もあって、このタイプの方の気持ちはよく分かります。甘い物の摂りすぎは脾を疲れさせるので、思い当たる方は少し控えてみてください。

2. 夜中の1〜3時に目が覚める(中途覚醒)——肝

1〜3時は肝の時間帯。この時間に目が覚める方は、不眠としてはきついタイプで、体に何らかの緊張が続いています。原因としてよく見るのは、ストレス、忙しさ、そしてスマホやパソコンによる目の使いすぎです(東洋医学では目は肝とつながっていて、夜遅くまで画面を見ると肝を消耗します)。

やっかいなのは、眠れないから肝が興奮する、肝が興奮するからまた眠れない、という悪循環に入りやすいこと。ただ、安心材料もあります。肝は東洋医学ではもともと強い臓器です。診察して肝の不眠だとはっきり分かった方には、私は「この不眠は肝臓が原因で、肝臓は強い臓器なので大丈夫ですよ」とその場でお伝えしています。

3. 明け方の3〜5時に目が覚める(早朝覚醒)——肺

3〜5時は肺の時間帯。この時間に目が覚めてしまう早朝覚醒の方は、呼吸が浅くなっていることが多いです。ご本人は呼吸のことなど気にしていないことがほとんどですが、診てみると胸まわりや背中が固まって、息を深く吸えない体になっています。このタイプの体の整え方は、後ほど鍼灸の項でお話しします。

4. 昼間は眠いのに夜は目が冴える(昼夜逆転)——腎

これは「何時に目が覚めるか」ではなく、一日のリズムごとひっくり返っているタイプです。

東洋医学では、体力の素を「精」(せい。米へんに青と書きます)と呼び、腎(じん)がそれを蓄えていると考えます。脾が日々の栄養という「現金」を作り、余った分を腎が「貯金」する——その貯金が精です。この貯金が乏しくなると、まず午後3〜7時(膀胱と腎の時間帯)にドカンと眠気が来ます。「3時のおやつどき、猛烈に眠くなる」という方はこれです。そして夜になると、こんどは肝の時間帯に目が冴えて、夜中に少しだけ元気になる。お年寄りや、家にこもりがちな方の「昼夜逆転」は、こうして起きていると私は見ています。

足がむずむずして眠れない、いわゆる「むずむず足」も、私の見方では精力——体力の貯金——が切れたサインで、同じ腎の仲間です。

不眠への鍼灸のアプローチ——元気なところから間接的に助ける

弱っている臓に直接鍼をしても、弱っているのですから一時的にしか効きません。私の治療は、元気なところから間接的に助けるやり方です。タイプごとに疲れている臓の見当をつけ、脈とお腹で確かめてから、それを支える側のツボを選びます。

不眠の方でよくあるのは、お腹の肝の場所と「筋(すじ)」がパンパンに張っているケースです。この張りが取れると、よく眠れるようになる方が多い。

また、のぼせて頭や首の後ろに熱がこもり、足は冷えている——いわゆる「冷えのぼせ」の方には、上がった熱を下ろす治療をしながら、「足を動かす、つまり歩かないとね」という話を少しだけします。汗をかけない、運動不足、体(特に上半身)がガチガチ。そういう方は熱と水の流れが滞っているので、歩いて足を使うことが一番の助けになるからです。

通院の目安は週1〜2回。体質から変えたい方には週2〜3回をお勧めしています。

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不眠の「治り」と通院回数の目安——正直なところ

ここは正直に書きます。不眠の治療で「治る」とは、まず深刻な状態から脱することです。もともと不眠気味という体質まで消えるわけではありません。ただ、深刻な状態を脱するのは、他の症状に比べて早い方が多いのです。

10年前は、来られる方の半分ほどが肝タイプで、けっこう早く良くなりました。いまはストレスの多い時代になったのか、すぐ良くなる方は3〜4割ほどに減った実感があります。それでも不眠は治りが早いほうの症状です。一方で、昼夜逆転が固定してしまった方や、薬に長く頼ってきた方など、しつこい不眠も全体の3割ほどいらっしゃいます。

眠れない→体力が落ちる→いろんな症状が出る→イライラする→また眠れない。不眠のつらさはこの悪循環にあります。逆に言えば、どこかで循環を断ち切って「眠れた」が始まると、休める→体力が戻る→「良くなるかも」と思える、という良い循環に入っていきます。

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睡眠薬をやめたい・頼りたくない方へ——薬とのつきあい方

不眠で来院される方のお話には、いくつかのパターンがあります。薬を飲んでいるのに夜中に目が覚めてしまい、焦って来られる方。「1ヶ月だけ」のつもりで飲み始めたのに一向に収まらず、「これでは癖になる」と心配になって来られる方。薬を飲みたくなくて、なんとか頑張ったけれど無理だった、という方。

どの方にも、私はいつも同じようにお答えしています。「最初は飲みながら治療をしましょう。薬をやめるのを目標にしましょう」。薬を自己判断で急にやめる必要はありませんし、減らすときは処方されたお医者さんと相談しながらで大丈夫です。

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本気で「自分で治したい」方へ——自律訓練法

最後に、これはすべての方向けではありませんが、本気で自分の力で不眠を治したい方にだけお伝えします。

私自身の経験では、自分で不眠を治す方法として一番効くのは自律訓練法です。「これしかない」とまで思っています。ただし、マスターするにはコツがいり、正直、できない人はできません。手順をここで中途半端に説明しても伝わらないので、書きません。気になった方は「自律訓練法」で検索して、じっくり取り組んでみてください。合う方には救世主になります——これは私個人の実感です。

ほかには、寝る前にお粥など消化のやさしい炭水化物を少しだけ、という方法を、合いそうな方にはお勧めすることがあります。

よくある質問

Q. 夜中の1時〜3時にちょうど目が覚めるのは、なぜですか?

A. 東洋医学では夜中の1〜3時は肝の時間帯と考えます。ストレスや忙しさ、スマホ・パソコンによる目の使いすぎなどで肝に緊張が続いていると、この時間帯に目が覚めやすくなる、というのが東洋医学の見方です。当院ではこのタイプの不眠の相談が最も多く、肝はもともと強い臓器なので、比較的良くなりやすいタイプだと考えています。

Q. 不眠の鍼灸治療は、どのくらいのペースで通えばいいですか?

A. 当院では週1〜2回を目安にご案内しています。体質から変えたい方には週2〜3回をお勧めしています。私の経験では、不眠は深刻な状態から脱するのが比較的早い症状ですが、体力やタイプによって経過は異なるため、初回の診察でおおよその見通しをお伝えしています。

Q. 睡眠薬を飲んでいても、鍼灸を受けられますか?

A. 受けられます。当院では「最初は薬を飲みながら治療をして、薬をやめることを目標にしましょう」とお伝えしています。薬を自己判断で急にやめる必要はなく、減らすときは処方されたお医者さんと相談しながら進めてください。

まとめ——目が覚める時刻は、体からの手がかりです

  • 寝つけない(考えごとの堂々巡り)——脾
  • 寝つけない(イライラ)・夜中1〜3時に覚める——肝
  • 明け方3〜5時に覚める——肺
  • 昼眠くて夜目が冴える・むずむず足——腎

眠れない夜がつらいのは、体力とともに「良くなるかも」という気持ちまで削られていくからです。タイプの見当がつけば、打つ手はあります。おひとりで悩まず、まずはご相談ください。

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